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東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)41号 判決 1979年8月30日

東京都港区六本木七丁目七番四号

原告

森廣充

東京都港区西麻布三丁目三番五号

被告

麻布税務署長

右指定代理人

小野拓美

三宅康夫

中村政雄

金田晃

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五三年五月一日付でした所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告が昭和五二年分の所得税についてした確定申告、これに対する被告の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)並びに右各処分に対し原告がした異議申立、これに対する被告の決定及び原告がした審査請求、これに対する国税不服審判所長の裁決の各経緯及び内容は別表記載のとおりである。

2  しかし、本件更正処分には次の違法がある。

原告は昭和五二年中に社会保険庁から老令年金三三、七六〇円、東京都職員共済組合から退職年金二、〇八三、八三四円の各支払を受けたものであるが、これらの支払資金の原資は原告と使用者との折半による積立金とその運用益であるところ、右積立金はその支払年度毎に原告の総所得金額の一部として課税の対象とされてきたのであるから、これらの積立金の支払から生じた右各年金に対する課税にあたってはその二分の一に相当する金額(一、〇五八、七九七円)を雑損控除として課税対象から除くべきであるところ、これをしないで年金全額に課税した本件更正処分は右限度で二重に課税するもので違法である。

3  本件賦課決定処分は違法な本件更正処分を前提とするものであるから違法である。

4  よって本件各処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1は認める。

2  同2のうち原告がその主張の各年金の支払を受けたこと及びその年金合計額の二分の一に相当する金額を雑損控除として申告したことは認めるが右金額が雑損控除に該るとの主張及び請求の原因3、4は争う。

3  原告は前記各年金合計額の二分の一に相当する金額が雑損控除の対象になる旨主張するが、所得税法第七二条第一項が定める雑損控除とは「居住者」等の有する資産について「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合」に一定額を総所得金額等から控除する制度であるから、原告主張の右金額がこれに該当しないことは明らかであるし、又右金額は他のいかなる所得控除にも該当しない。

三  被告の主張

本件各処分の課税根拠は次のとおりである。

1  原告は昭和五二年中に次の給与等の収入を得た。

(一) 関東建物管理株式会社(給与) 三、二〇〇、〇〇〇円

(二) 社会保険庁(老令年金) 三三、七六〇円

(三) 東京都職員共済組合(退職年金) 二、〇八三、八三四円

2  原告の前項(二)及び(三)の収入金額から租税特別措置法第二九条の三第二項の老年者年金特別控除額七八〇、〇〇〇円を控除し、この残額と右(一)との合計額から所得税法第二八条第三項第三号によって計算した給与所得控除額一、三五七、五一八円及び雑損控除以外のその他の所得控除額九八五、一七五円を各控除すると原告の課税所得金額は二、一九四、〇〇〇円となり(但し国税通則法第一一八条第一項により一、〇〇〇円未満の端数は切捨て)、これに所得税法第八九条所定の税率を乗じた税額から源泉徴収済の税額を控除すると、その税額は一五四、二〇〇円となる(但し国税通則法第一一九条第一項により一〇〇円未満の端数は切捨て)。

3  従って、原告は本件更正処分により納付すべき税額一五四、八〇〇円を過少に申告していたことになるから、右税額(但し同法第一一八条第三項により、一、〇〇〇円未満の端数を切捨てた額)に一〇〇分の五の割合を乗じた金額に相当する七七〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したものである。

四  被告の主張に対する認否

雑損控除に関する点は争い、その余の事実はすべて認める。

理由

一  請求の原因1並びに被告の主張1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  原告は昭和五二年中に社会保険庁から老令年金三三、七六〇円、東京都共済組合から退職年金二、〇八三、八三四円の各支払を受けた(この事実は当事者間に争いがない。)ものであるが、右各年金の合計額の二分の一に相当する金額を雑損控除として課税所得金額から控除すべきであると主張するので以下この点につき判断する。

所得税法第七二条に定める雑損控除の制度は、居住者の有する一定の資産につき、災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合、当該損失の金額がその居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の一〇分の一に相当する金額をこえるとき、そのこえる部分の金額を右各所得金額から控除するもので、雑損失による担税力の低下を課税上考慮しようとする制度であるところ、原告主張の前記の合計年金額の二分の一の金額が右法条の災害等による損失の金額に該当しないことは文理上及び制度の趣旨に照らし明白であるから原告のこの点に関する主張は採用できない。又右金額が所得税法が定める他の所得控除のいずれにも該当しないことは明らかである。原告の主張は独自の見解であって採用できない。

そうすると、右の雑損控除を除くその余の点について当事者間に争いのない本件においては、本件更正処分を取り消すべき違法は見当らないから右処分は正当というべく、又これを基礎とする本件賦課決定処分も正当である。

三  よって原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 田中信義)

別表

<省略>

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